2015-17年度の3年間を期間として、日本学術振興会 科学研究費補助金の採択を受け、「水産資源の持続的利用を促進するフードシステムの構造改革:小売主導型流通に着目して」の調査・研究に取り組んでいます。
この研究のタイトルにも含まれる「水産資源」は、本来、自律更新性を備え(勿論、環境も含め)適切に管理・採捕を行えば持続的・永続的な利用さえ可能という非常に素晴らしい能力、可能性を秘めています。しかし現実的には、既に満限・過剰利用又は枯渇状態にある海面漁業資源の割合がかなりを占める状況にあります(詳細はFAO, The state of world fisheries and aquaculture 2016参照)。日本(人)と関連が深いところでは、近年、クロマグロや二ホンウナギの資源悪化が取り沙汰され、CITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:ワシントン条約)の附属書掲載協議やIUCN(世界自然保護連合)のレッドリスト掲載・カテゴリ改訂、あるいは「供給減」「価格高騰」「食べられなくなる」といった報道を見聞きする機会が増えていることはご存知の通りです。資源の保全は、漁業・養殖など生産段階の管理が非常に重要であることは疑いありません。実際、国際機関や水産庁等による管理の体制整備やルール作り等も進んでいます。その管理のあり方の評価は賛否あるようですが、私の関心は川上管理そのものではなく、「資源問題はそれを直接採捕する生産者のみに帰属する・・・資源を回復・保全する責任は漁業者や養殖業者にある(われわれ中間流通・小売・消費者には無関係)」との理解は果たして正しいのか、という点です。また、「スーパーマーケットの薄利多売が・・・」と川下業者にその矛先を向ける論調もあるようですが(個人的には、その是非はともかく、川下側の事情や実態も正しく理解する必要があると思いますが)、採捕するから販売・消費する、需要があるから採捕する・・・といった鶏と卵のような関係・議論ではなく、資源の保全や持続性確保を共通目標に、生産者の主体的な管理を促す、サポートする、また時にはその対応を矯正するような(将来同じ問題を繰り返さないための)社会の仕組み(中間流通組織・川下流通組織・消費者の関与)が重要ではないかと考えています。とはいえ、たとえば資源悪化が指摘されるクロマグロ(とくに太平洋クロマグロ)でさえ、それがどのように流通・取引されているのか(フードシステムの担い手や関係性)、川上の管理が強まる中にあって変化や影響は生じているのか(とくに川下の流通企業の行動と論理)、実態は定かではないため、その理解を深めるためのアンケート調査や聞き取り調査を進めているところです。クロマグロを主なターゲットに、また「小売主導型」と称される現行流通・再編の特徴を踏まえて川下起点で検討していますが、それに先立ち、水産物流通一般の現局面を捉えるため、卸売市場流通・制度の揺らぎに関する検討も一部行っています。
なお、個々の調査対象組織や内容・結果等の詳細に関する記載は控えさせて頂き、以下、これまでの主な活動経過を列挙します(その都度更新して行く予定です)。
●論文等公表
・山本尚俊・北野慎一:量販店によるクロマグロの取扱実態と仕入行動の特質、漁業経済研究、61(2)、15-30 (2017/7)
・山本尚俊・平亮馬:卸売市場流通の縮小下における市場業者の対応と卸・仲卸二段階制の揺らぎ―福岡市中央卸売市場鮮魚市場の上位仲卸を中心に―、漁業経済研究、60(2)、1-16(2016/7)
・拙稿:太平洋クロマグロの管理強化と国内需給の変化、長崎大学水産学部研究報告、97、1-10 (2016/3)
・拙稿:クロマグロの取扱概況等に関するアンケート調査(集計結果概要)、1-15 (2016/2)[記名回答組織への概要報告用]
●口頭発表
・クロマグロを巡る量販店の商品化行動とサプライチェーンー原価・ロス抑制対応に焦点をあててー、漁業経済学会64回大会・一般報告、東京都・東京海洋大学(2017/6/4)
・水産物流通・取引を巡る川下の主導性と卸売市場流通機構の揺らぎ、熊本県地方卸売市場協同組合連合会等講演会、招聘講演、熊本市・熊本地方卸売市場 市場会館大会議室(2017/2/21)
・水産物フードシステムをめぐる変化と特徴ー強まる川下の主導性と卸売市場流通の再編ー、九州青果卸売連合会等講演会、招聘講演、長崎市・ホテルニュー長崎(2016/11/14)
・量販店におけるクロマグロの取扱実態と特徴ー郵送調査結果を中心にー、地域漁業学会58回大会・個別報告、別府市・公立学校共済組合別府保養所豊泉荘(2016/10/30) *北野慎一氏との共同発表(報告者は山本)
・福岡市中央卸売市場の再編動向と特徴ー市場業者の動きと主体間の関係性に注目してー、漁業経済学会62回大会・一般報告、東京都・東京海洋大学(2015/5/31) *平亮馬氏との共同発表(報告者は山本)
●その他相談等依頼案件への対応、出前講義等(主なもの)
・熊本県の某高校でクロマグロの資源利用問題を題材に出前講義実施(2017/8/25)
・帝国書院「新詳地理資料 COMPLETE2017」コラム(クロマグロ)の改訂及び水産頁の内容確認・コメント(2016/11/-)
・The Economist (UK)のライター、クロマグロに関するメール取材(2016/9/5-8) *Sept. 24th 2016掲載記事用
・九州の某都市自治体/市場開設者来崎・面談、卸売市場の今後のあり方等に関して(2016/9/1)
・The Asia-Pacific Journal/Japan Focusのライター、クロマグロに関する電話取材(2016/8/-) *Vol.14-15-9掲載記事用
●調査活動等
・大手資本系マグロ養殖業者(愛媛県愛南町)で養殖生産及び販売概況等に関する調査・現場視察実施(2017/9/19-20)
・マグロ専門商社(静岡藤枝市)でマグロ類の取扱概況とBFTの量販対応等に関する調査実施(2017/9/15)
・マグロ専門商社(静岡榛原郡)でマグロ類の取扱概況とBFTの量販対応等に関する調査実施(2017/9/14)
・マグロ専門商社(静岡市清水)でマグロ類の取扱概況とBFTの量販対応等に関する調査実施(2017/9/13)
・輸入及び国内養殖事業を行う大手水産会社(東京)でマグロ類の取扱概況とBFTの量販対応等に関する調査実施(2017/8/23)
・輸入及び国内養殖事業を行う大手水産会社(東京)でマグロ類の取扱概況とBFTの量販対応等に関する調査実施(2017/8/22)
・関東の地域SM大手(仙台)でクロマグロの製品設計のあり方・考え方に関する調査実施(2017/3/28)
・市場卸(東京)でクロマグロの市況等(B予)に関する調査実施(2017/3/3)
・関東の地域SM大手(東京)でクロマグロの製品設計のあり方・考え方に関する調査実施(2017/3/3)
・関東の生協組織(埼玉)でクロマグロの製品設計のあり方・考え方に関する調査実施(2017/3/2)
・近大水産研究所本部(和歌山)で完全養殖・人工種苗由来の養殖物の生産・販売概況(B予)に関する調査実施(2016/10/14)
・水産庁「太平洋クロマグロの資源・養殖管理に関する全国会議」参加・情報収集(2016/8/26)
・大手水産会社(東京)でクロマグロの取扱概況、及び量販店のマグロ仕入・取引条件等(B予)に関する調査実施(2016/8/26)
・市場卸2社(東京)でSM仕入における市場介在等に関する調査実施(2016/8/9)
・関東のローカルSM大手(東京)でクロマグロのロス抑制及び仕入対応等に関する調査実施(2016/8/8)
・関東のローカルSM(東京)でクロマグロのロス抑制及び仕入対応等に関する調査実施(2016/8/3)
・関東の地域SM大手(東京)でクロマグロのロス抑制及び仕入対応等に関する調査実施(2016/8/2)
・関東の生協組織(埼玉)でクロマグロのロス抑制及び仕入対応等に関する調査実施(2016/8/2)
・関東の地域SM大手(埼玉)でクロマグロのロス抑制及び仕入対応等に関する調査実施(2016/8/1)
・関東の地域SM大手(東京)でクロマグロのロス抑制及び仕入対応等に関する調査実施(2016/7/29)
・関東の地域SM(神奈川県)でクロマグロのロス抑制及び仕入対応等に関する調査実施(2016/7/28)
・全国系大手GMS(東京)でクロマグロのロス抑制及び仕入対応等に関する調査実施(2016/7/28)
・関東の地域SM大手(東京)でクロマグロのロス抑制及び仕入対応等に関する調査実施(2016/7/27)
・大手水産会社(東京)でクロマグロの取扱概況、及び量販店のマグロ仕入・取引条件等(B予)に関する調査実施(2016/7/12)
・大手水産会社(東京)でクロマグロの取扱概況、及び量販店のマグロ仕入・取引条件等(B予)に関する調査実施(2016/7/11)
・漁業経済学会シンポ「水産物小売の現代的特徴とその再生〜スーパーチェーンの限界と未来」等参加・情報収集(2016/6/11-12)
・市場卸(東京)でアンケート調査結果および市場価格等に関する調査を実施(2016/3/17)
・関東の地域SM大手(東京)でアンケート調査結果に関する意見徴収・補足調査を実施(2016/3/16)
・300組織から調査票回収(2016/1/5) *締め切り期日を過ぎて届いた最終日が同日
・全国の食品SM等1,070組織に『クロマグロの取扱概況等に関するアンケート調査』票発送、回収期限11/30(2015/11/11)
・全国系大手GMS(千葉)でクロマグロの取扱実態及び昨今の管理強化の影響等に関する調査(A予)を実施(2015/10/16)
・市場卸(福岡)・食品SM(北九州)でクロマグロの取扱状況等に関する調査(A)を実施(2015/9/25)
・市場卸・高級食品SM(福岡)でクロマグロの取扱状況等に関する調査(A予)を実施(2015/9/24)
・大手水産会社(東京)で完全養殖クロマグロの流通・取引概況(川下仕向)に関する調査(A予)を実施(2015/9/17)
・関東の地域SM大手(東京)でクロマグロの取扱実態及び昨今の管理強化の影響等に関する調査(A予)を実施(2015/9/17)
・関東の地域SM大手(東京)でクロマグロの取扱実態及び昨今の管理強化の影響等に関する調査(A予)を実施(2015/9/16)
・水産庁「太平洋クロマグロの資源・養殖管理に関する全国会議」参加・情報収集(2015/8/27)
・全国系大手GMS(東京)でクロマグロの取扱実態及び昨今の管理強化の影響等に関する調査(A予)を実施(2015/8/27)
・市場卸(東京)とマグロ商社(千葉)でクロマグロの川下需要と昨今の流通・取引概況(A予)に関わる調査を実施(2015/8/27)
・関東の生協組織でクロマグロの取扱実態及び昨今の管理強化の影響等に関する調査(A予)を実施(2015/8/26)
・市場卸(東京)とマグロ商社(千葉)でクロマグロの川下需要と昨今の流通・取引概況(A予)に関わる調査を実施(2015/8/25)
・食品SM(佐世保)で水産物仕入と卸売市場評価、及びクロマグロの取扱実態(A予)に関わる調査を実施(2015/8/10)
・市場卸・仲卸等(福岡)で流通再編調査(2015/4・5) *3月から調査継続、アンケート予算確保を前提に個人負担実施のため詳細割愛。
(A予):量販店のクロマグロ取扱実態アンケートの作成・準備のために実施した予備調査を指す。
(B予):量販店の販売・機会ロス及び仕入対応等に関する納品業者側での予備調査を指す。
※括弧内の都道府県は調査場所を指し、必ずしも調査先の本社所在地を示す訳ではない。